【感想】『天子蒙塵』 浅田次郎
★★★☆☆
んー、これは困りました。
いや、面白かったんですよ。間違いなく素晴らしい。
まだ今回のシリーズ的には導入編なのでしょうけれど、〈ラストエンペラー〉をそこから描くか、と言う視点はさすがですね。
皇帝そのものではなく、前代未聞の「皇帝との離婚」を女性の視点から描くことによって、神にも近い存在である皇帝を一人の人間として男性として見せる。さすがです。
思えば『蒼穹の昴』でも、西太后を宦官の視点から見事に悲劇の女性として描き出しましたし、『珍妃の井戸』は言わずもがな。
浅田さんのこの中国シリーズは、中華皇帝と言う神にも等しい絶対者を中心としながら、女性の物語なのですね。
相変わらず美しい日本語が織り成す文章は読むだけで心地よい気分に浸れますし、そういう意味では文句の付けようがないのですが、星は三つ。
これは、もう本当に個人的なことです。なので作品の評価として額面通りではないです。
『蒼穹の昴』に始まったこの中国シリーズは今作『天子蒙塵』で5作目。
西太后から珍妃、張作霖、張学良とメインキャストは移り変わって来たわけですが、歴史ものの宿命として、これまでの流れを知っておいた方がより楽しめるのは間違いなく。
ようは、「もう忘れちゃってるから読み返したい」と言うことです(笑)。
もちろん史実的な部分はだいたい覚えていると言うか知っているのですが、創作の部分はさすがにもうほとんど忘れてしまっていて。
そこが分かっていればもっと楽しめるのになあ、と思った箇所が多くあったので…と言う個人的な残念感からの星三つです。
『スリーピング・ドール』 ジェフリー・ディーヴァー
大好きな〈リンカーン・ライム〉シリーズからのスピンアウト作品ということで、いつかは読もうと思っていた、「人間噓発見器」〈キャサリン・ダンス〉シリーズの一作目です。
もちろん、続きを買うかどうかは面白ければという条件付きではありますが、まあ作者に限ってハズすことはほとんどないでしょうし、続けて買うのはほぼ既定路線かと。
非常に楽しみです。
- 作者: ジェフリーディーヴァー,Jeffery Deaver,池田真紀子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』 ピーター・トライアス、中原尚哉
これは設定勝ちでしょうねえ。
第二次世界大戦で日本が勝っていたらという、いわゆる歴史ifモノなのですが、通常の歴史ifモノはそのifの時代の続きを描くことが多いのに対して、この作品はそこからかなり後の話。と言うかSF。
つまり、日本が第二次世界大戦に勝ったというifを前提にして、そのまま未来になったらどうなっているか、というお話(のようです)。
表紙を見れば分かるように、どうやら二足歩行のロボットが出て来るようで、ここは日本人の傾向をよくわかってますよね。
非効率だろうが難易度が高くて無駄だろうが、それでも二足歩行の人型ロボットを追求する国、それがジャパン。
確かに日本が戦勝国になり、アメリカに制限されることなく軍備の開発を自由に続けていたとしたら、人型ロボットはもっと早く実用化されていたかもしれません。
この作者は外国人なのに日本人をよく分かっていらっしゃる(日本人と共著のようですが)。
とまあ、そんなアホらしい空想の物語のようなので、こんな中二病スレスレ設定のSFなんて気になるに決まっているじゃないですか。
買うしかないですよね。
ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: ピータートライアス,中原尚哉
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ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: ピータートライアス,中原尚哉
- 出版社/メーカー: 早川書房
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『ホルケウ英雄伝 この国のいと小さき者』 山浦玄嗣
『宇宙探偵マグナス・リドルフ』 ジャック・ヴァンス
これはもうタイトル勝ちでしょう。
だって「宇宙探偵」ですよ、「宇宙探偵」。
そんなんもう気になるに決まってるやん。
そう言えば僕の世代は子供時代に「宇宙刑事」にだいぶ影響されましたが、刑事がいるなら探偵がいたって良いはずで。
なんでもっと早くその存在を思いつかなかったのかむしろ不思議です。
まあ、海外の作家さんなので、ギャバンもシャリバンも知ってるわけないでしょうから、当然ながらそのノリではないと思いますが、買った理由は間違いなくそこ。
「宇宙探偵」という4文字だけで買いました。
それ以外に理由はないです。
あと、まったく買った理由には関係ないですが、版元がすごいですね。
国書刊行会って。
僕も相当いろんな本を買ってる方だと思いますが、不勉強で知りませんでした。
調べてみたら結構ミステリとか出してるんですね。
ちょっと今後注目してみたいと思います。
あと、新年一発目の更新にしてはかなりの変化球から始めちゃったなという気はしていますw
宇宙探偵マグナス・リドルフ (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)
- 作者: ジャックヴァンス,Jack Vance,浅倉久志,酒井昭伸
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2016/06/24
- メディア: 単行本
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【感想】『屋根をかける人』 門井慶喜
★★★☆☆
星を付けるのがちょっと難しいなあ…
と言うのも、序盤からの印象は良くなかったんですよ。
理由はとにかく展開が早過ぎて。
なんか冒頭に登場した時の主人公のキャラが、数ページ後にはコロッと変わっていて、その理由らしきことは確かに文中にあるのだけれど、「え、それだけで?」みたいな。
それ以外でも、日本に来て、教員として働き出して、キリスト教を広める活動もして、んで解雇されて、建築家に転身して、ってところまでが一気に最初の章で展開するんですよ。早い早い。
まあ、ダラダラやるのが良いとは言わないのですけど、一人の人間の人生の一部を描くにしてはちょっとはしょり過ぎなんじゃないかなと言うのが正直な印象。
特に、この本の前に、時代的にも同じぐらいで、しかも日本に来た外国人と言う設定まで同じ、そしてかなり重厚にその生涯を描き切った『リーチ先生』を読んでいたもので、そのギャップがことさら激しく感じられてしまったのかもしれないです。
かなり終盤までそんな感じだったので、ハードカバーの割にはさくさく進むし、正直「ちょっと物足りないなあ」と思っていたのですが、最後がね、とても良かったんですよ。
作者自身が帯で、「このラストシーンを書くために時代小説家になった」とまで書いているほどなので、相当自信があったのだと思いますが、確かに素晴らしかったです。
主人公と昭和天皇陛下が会話をするこの数ページのためにこの物語はあったのだと。
ネタバレは良くないのであまり詳しくは書けませんが、特に、陛下の最初の一言と、それを受けた主人公の思いの部分は、日本人としてたいへん心に沁みます。
入りの印象は良くなかったのですが、後味がとても良い本でした。