【感想】『屋根をかける人』 門井慶喜
★★★☆☆
星を付けるのがちょっと難しいなあ…
と言うのも、序盤からの印象は良くなかったんですよ。
理由はとにかく展開が早過ぎて。
なんか冒頭に登場した時の主人公のキャラが、数ページ後にはコロッと変わっていて、その理由らしきことは確かに文中にあるのだけれど、「え、それだけで?」みたいな。
それ以外でも、日本に来て、教員として働き出して、キリスト教を広める活動もして、んで解雇されて、建築家に転身して、ってところまでが一気に最初の章で展開するんですよ。早い早い。
まあ、ダラダラやるのが良いとは言わないのですけど、一人の人間の人生の一部を描くにしてはちょっとはしょり過ぎなんじゃないかなと言うのが正直な印象。
特に、この本の前に、時代的にも同じぐらいで、しかも日本に来た外国人と言う設定まで同じ、そしてかなり重厚にその生涯を描き切った『リーチ先生』を読んでいたもので、そのギャップがことさら激しく感じられてしまったのかもしれないです。
かなり終盤までそんな感じだったので、ハードカバーの割にはさくさく進むし、正直「ちょっと物足りないなあ」と思っていたのですが、最後がね、とても良かったんですよ。
作者自身が帯で、「このラストシーンを書くために時代小説家になった」とまで書いているほどなので、相当自信があったのだと思いますが、確かに素晴らしかったです。
主人公と昭和天皇陛下が会話をするこの数ページのためにこの物語はあったのだと。
ネタバレは良くないのであまり詳しくは書けませんが、特に、陛下の最初の一言と、それを受けた主人公の思いの部分は、日本人としてたいへん心に沁みます。
入りの印象は良くなかったのですが、後味がとても良い本でした。