【感想】『天子蒙塵』 浅田次郎
★★★☆☆
んー、これは困りました。
いや、面白かったんですよ。間違いなく素晴らしい。
まだ今回のシリーズ的には導入編なのでしょうけれど、〈ラストエンペラー〉をそこから描くか、と言う視点はさすがですね。
皇帝そのものではなく、前代未聞の「皇帝との離婚」を女性の視点から描くことによって、神にも近い存在である皇帝を一人の人間として男性として見せる。さすがです。
思えば『蒼穹の昴』でも、西太后を宦官の視点から見事に悲劇の女性として描き出しましたし、『珍妃の井戸』は言わずもがな。
浅田さんのこの中国シリーズは、中華皇帝と言う神にも等しい絶対者を中心としながら、女性の物語なのですね。
相変わらず美しい日本語が織り成す文章は読むだけで心地よい気分に浸れますし、そういう意味では文句の付けようがないのですが、星は三つ。
これは、もう本当に個人的なことです。なので作品の評価として額面通りではないです。
『蒼穹の昴』に始まったこの中国シリーズは今作『天子蒙塵』で5作目。
西太后から珍妃、張作霖、張学良とメインキャストは移り変わって来たわけですが、歴史ものの宿命として、これまでの流れを知っておいた方がより楽しめるのは間違いなく。
ようは、「もう忘れちゃってるから読み返したい」と言うことです(笑)。
もちろん史実的な部分はだいたい覚えていると言うか知っているのですが、創作の部分はさすがにもうほとんど忘れてしまっていて。
そこが分かっていればもっと楽しめるのになあ、と思った箇所が多くあったので…と言う個人的な残念感からの星三つです。