【感想】『室町無頼』 垣根涼介
★★★☆☆
期待していたのを100点とするのであれば、70点ぐらいには面白かったです。
ただ『光秀の定理』と比べるとやや物足りない感はあり…
まあ、明智光秀と言う、戦国の中でもそもそも魅力的な要素を多く持つキャラクターを扱った前作と違って、歴史上では実在の人物のようですが、ほとんどの人は知らないはずの無名な主人公が中心の今回とではそもそも前提条件が違うのですけどね。
しかも僕は戦国好きで光秀好きなので、その前提からしてやや割引きなのは当然と言えば当然でして。
なのでその辺を差っ引いて、それでもちょっと…と思った部分がどこかと言う感想を書こうと思います。
まずタイトルにもある通り、今回は室町時代が舞台。
室町と言えば戦国時代の一つ手前なので、歴史にさほど興味がない方はそんなに変わらないんじゃないかと思われるかもしれませんが、相当違います。
まあ確かに室町幕府の弱体化から戦国時代に突入したので、時代的には紙一重ではあるんですが、戦国時代の醍醐味である大名が乱立して群雄割拠の戦いまくり、という状況はないわけですよ。
言ってみれば、明治維新の兆候は見えるけどまだそこまで乱れていない江戸時代みたいなもので。
坂本竜馬も勝海舟も新選組もまだいない。ペリーもまだ来てない。でも幕府の治世に陰りは見える。
そう、江戸で言うと大塩平八郎の乱の辺りなのかもしれないですね。
不穏な空気はあるけど爆発はしていないので、小説にするにはあまりインパクトのない舞台設定ではあります。
そのインパクトのなさがどうしても出てしまってるのかなー、と。
主人公たちの目的は一揆を起こすことなのですが、それを起こして世の中を変えようとか、政府を転覆させようとか、そういう明確な目的がないんですよね。「起こすこと」と、それによって影響が波及していくことが目的になってしまいるので、なんかもやっとしてしまって。
そういう戦い方をした人たちにライトを当てたという意味もあるのだとは思いますが、物語として、エンタメとしてはちょっと力不足な感じ。
あと、主人公の成長のしかたがちょっとえげつな過ぎて説得力がないと言うか…
まあそもそも才能があった、ということにすればそれまでなんですけど、とは言えそんな急ピッチで強くなるもんかなあ、と。
なかなか喧嘩は強いねぐらいの小僧が、精神と時の部屋に入った悟空もびっくりのハイペースで、戦闘のプロである武士を何十人も相手にして暴れまわれるスーパーマンになってしまうのは、マンガでもちょっと無理があるような。
とまあ、そんなこんなで気になるポイントがありつつも、それでもそれなりに楽しめたのは作者の力量なのかなと思います。